本サイトではこれまでも自動車部品メーカーのM&A及びスタートアップへの出資動向を報告してきたが、ここでは過去の記事も参照しながら、2024年を通しての自動車部品メーカーのM&A、出資動向についてまとめる。
目次
トヨタ系
デンソー
アイシン
エクセディ
豊田自動織機
豊田合成
新事業探索
日本特殊陶業
武蔵精密工業
ユニバンス
東海理化
エフ・シー・シー
株式取得事業拡大
吸収合併
救済
河西工業
曙ブレーキ
トヨタ系
デンソー
デンソーは、これまで保有してきたトヨタ系サプライヤーの政策保有株式について低収益資産として合理性がない場合は保有しない方針とし、豊田自動織機、アイシンなどの株式の売却を進めている。売却した資産は、成長分野と位置付ける半導体関連への投資に充てる。台湾鴻海や九州での半導体製造会社への投資を行い、2024年の出資を含めた連携協業強化では、9月30日にロームとの協業検討、12月17日に米国オンセミ社との自動運転半導体での連携強化を発表している。
参考: 自動車部品メーカーのM&A動向 デンソー 2024/4/9
アイシン
アイシンも次世代電動化関連製品事業への集中を行うための動向が観察された。三菱電機モビリティとは5月24日に駆動モータ、インバータ、制御ソフトウェアなどの開発・生産・販売を行う合弁会社を設立すると発表したが、10月31日には業務提携契約での協力を行っていくと変更している。
一方で、スタンレー電気と三菱電機モビリティは11月25日、ADAS対応ランプシステム開発で合弁会社を設立すると発表している。規模と対象部品は異なるが、協力体制についての違いが際立った。
エクセディ
アイシンは、5月27日トルクコンバーターなどトランスミッション部品を製造販売するエクセディの株式を売却し、2001年より行ってきた資本関係を解消すると発表した。6月初旬にアイシンがエクセディの株式を売却すると、6月10日には旧村上ファンドのシティインデックスイレブンス及び村上世彰氏の長女である野村絢氏がエクセディの株式を5.47%買収した。その後、旧村上ファンドグループ会社は上昇するエクセディの株式の利益確定を行いながら、12月16日時点で21.21%の株式を保有する第一筆頭株主となっている。
旧村上ファンド系グループ会社は愛知製鋼の株式も買い増しを行っていて、今後自動車部品メーカーへの投資目的の株式保有が増える可能性がある。
エクセディは2024年前半までに、ドローン、二輪・三輪、商用車向け電動駆動システムのスタートアップへの出資、M&Aを行っている。8月29日に発表した川俣精機は、東芝の専属工場として発足、中・大型直流電動機の設計・製造を行ってきたが、近年はEV、HEV用永久磁石電動機の開発・製造も行っている。10月16日発表したWorldLinkは、ドローンを中心としたロボテックス事業を行っている。今後、ドローン、電動駆動システム関連事業がどのように展開していくのか注目だ。
参考: 中堅自動車部品メーカーの中期経営計画 2024
参考: 自動車部品メーカーのスタートアップへの出資、株式取得動向 2024年前半
豊田自動織機
豊田自動織機は、9月5日クロアチアの自己位置推定機能技術を開発しているジデオン・ブラザーズに出資、10月31日には豊田自動織機のオランダ子会社バンターラナデがシーメンスロジステックスの株式を取得した。どちらも物流関係の企業で、自動物流車両の性能強化や自動仕分けなどのサービスの獲得を行い、事業基盤整備に動いている。
豊田合成
豊田合成は社内CVCがスタートアップへの出資を暫時行っている。2024年後半では、9月30日には全方向移動が可能な搬送ロボットを開発する九州工科大学発のスタートアップTriOrbに、12月20日には産業向けLED照明装置を開発・製造・販売するパイフォトニクス、およびトラック・バスなど商用EVの開発・販売を手掛けるEVモーターズ・ジャパンに出資したと発表した。
豊田合成の場合、CVCによる多方面のスタートアップへの出資となっている。出資各社へどの程度協業を行い、事業展開を行っていくのか見えないところがある。
参考: 自動車部品メーカーのスタートアップへの出資、株式取得動向 2024年前半
新事業探索
日本特殊陶業
日本特殊陶業は、新規事業に積極的な会社でこれまでもスタートアップやファンドへの出資を行ってきた。1月9日に発表した米国生体吸収ポリマーを使用した抗菌性創傷治療シート開発のインベットサイエンス社への出資もCVCを通じて行っている。5月21日には水素と炭素循環をコンセプトとした「水素の森」プロジェクトを開始し、同時に40億円規模のCVCファンドを設立した。
日本特殊陶業は11月25日、東芝マテリアルと株式譲渡契約を締結したと発表した。買収金額は1,500億円で、2025年5月30日の譲渡完了を目指すとしている。東芝マテリアルは、EV用ベアリングに使用されるセラミックボールを製造していて、日本特殊陶業にとっては電動化で将来縮小が見こまれるエンジンプラグに代わる事業領域としての期待がかかる。一方で、一部の報道では1,500億円という買収金額に対して、割高ではという意見を掲載している。日本特殊陶業にとっても過去最大規模の買収金額であり、1,500億円の資金調達は簡単ではないとの観測もある。自動車の電動化進展と共に今後の動向を見守っていきたい。
参考: 中堅自動車部品関連メーカーのM&A動向 日本特殊陶業、リケンNPR、愛三工業
武蔵精密工業
スタートアップへの出資や株式取得による新事業展開を推進してきた武蔵精密は、2020年にJSRから譲受した武蔵エナジーソリューションズのハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)が、三菱電機の鉄道向け蓄電モジュールや米国AIデータセンターでの蓄電システムに検討されるなど実績が上がってきている中、2024年後半は3月に出資したエチオピアのEVスタートアップ ドダイへの追加出資に留まった。これまで投資してきたスタートアップや企業とのプロジェクトの成果取り込みを行っていきたいところだ。
参考: 自動車部品メーカーのスタートアップへの出資、株式取得動向 2024年前半
ユニバンス
これまでスタートアップへの出資などの発表がなかったユニバンスは、8月19日タイの電動トゥクトゥク開発スタートアップ アーバンモビリティに出資したと発表した。ユニバンスはこれまで展示会等で、自社開発の電動駆動システムを発表していた。武蔵精密工業やエフ・シー・シー、エクセディが、インドなどの新興国の電動二輪・三輪スタートアップとの協業で自社開発の電動駆動システムの適用検討および事業開発を展開してきたが、ユニバンスもタイのスタートアップと組んで同様の展開を模索する。
東海理化
東海理化は、カーボン素材企業との提携を中心にバッテリーなどの分野への展開を目論んでいるようだ。1月15日には東京大学発のBMS開発NExT-eSolutionsに出資、8月19日にはカーボンナノチューブ開発・製造の名城ナノカーボンと資本業務提携、12月11日には名古屋大学発でLiBの負極材にナノグラフェンの適用を開発するNU-Reiに出資している。
12月4日にはデンソーが、フィンランドのカーボンナノチューブ開発・製造カナツ社と車載カメラやフロントガラス用透明ヒーター開発で覚書を締結するなどカーボン系素材を活用したニュースが散見される中、東海理化がどのように展開していくか注目したい。
参考: カーボンナノチューブ事業に参入する自動車部品メーカー
エフ・シー・シー
エフ・シー・シーは、様々な分野のスタートアップに出資している。2023年6月には東海理化と同じようにカーボンナノチューブ開発スタートアップ カーボンフライに出資している。2024年に入ってからは9月19日に透明断熱エアロゲル開発のティエムファクトリに出資した。素材分野の強化だ。一方、自立走行ロボット(AMR)向け測位、ナビゲーション開発Guide Roboticsにも出資している。
さらに、9月26日にはインド・アセアン特化型ファンドに出資したと発表。分野、地域を跨いで新規事業分野探索は続いているようだ。
参考: カーボンナノチューブ事業に参入する自動車部品メーカー
株式取得事業拡大
中堅自動車部品メーカーのM&Aによる新事業分野展開の試みが見られる。
・ フジオーゼックスは、ピーアンドエムの精密加工技術でマイクロアクチュエータや医療機器分野展開。
・ NITTANは、恵那金属のタービンハウジング加工技術で、機械加工を成長事業の一つとして位置づけ。
・ 児玉化学は、ファンド下にあった柳川精機とダイヤメットを獲得し、ポートフォリオを拡大。
・ カヤバは、線バネなどを製造する知多鋼業にTOB。知多鋼業はカヤバ子会社との取引が3割あり、サプライチェーン上重要。
・ ミツバは、53%の株式を保有していた自動車電装用部品製造のタツミを完全子会社化。電動化トレンドに沿った展開。
・ 田中精密は、アルミダイカスト鋳造金型生息の米谷製作所を子会社化。ギガキャストへの挑戦を行う。
吸収合併
これまで子会社であった会社の吸収合併により、シナジー効果や競争力強化を目論む企業も目立った。
救済
日産自動車は5月9日、2023年3月期まで4期連続赤字計上し資金繰りが悪化、金融機関への借入返済期間の延長を行ってきた河西工業に60億円を出資すると発表した。2023年3月期の河西工業の日産自動車への売上高比率は52%となっていた。11月1日、河西工業は日産自動車に総額60億円分の第三者割当増資株式を発行し、日産自動車が河西工業の12.85%の株式を保有し筆頭株主となった。これに伴い、河西工業の代表取締役社長にはジヤトコ出身の古川幸二氏が就任した。
12月18日、曙ブレーキ工業はジャパン・インダストリル・ソリューションズ(JIS)ファンドが、議決権のないA種種類株式の一部を普通株式に転換することで、議決権のある株式保有割合が50.72%となり筆頭株主になり、これまで筆頭株主であったトヨタ自動車の保有株式割合は5.72%となり第2位となると発表した。これに伴い、曙ブレーキの代表取締役社長CEOには、日産自動車出身の長岡宏氏が就任すると発表した。
日産自動車と本田技研工業は12月23日、経営統合に向けた協議を正式に開始すると発表した。河西工業の経営悪化の背景には、日産自動車の販売台数の減少により財務状況が悪化したことが挙げられる。河西工業を救済に回った日産自動車がホンダに救済される状況は、現在の日本の自動車産業の状況を反映している。今後の日産、ホンダ向けサプライヤーを含めた自動車産業全体へ影響が拡大する可能性があることを示唆している。そのような中で、今後も自動車部品メーカーのM&Aやスタートアップ出資による新事業展開、事業ポートフォリオ拡大強化の動きは広がっていくとみられる。
以上
参考: