CCUとしてのCO2原料プラスチック
CCUとしてのCO2原料プラスチック

CCUとしてのCO2原料プラスチック

 三洋化成は2024年4月15日、英国の触媒システム開発スタートアップ エコニック社と覚書を締結したと発表した。エコニック社が保有するCO2を原料としたポリオール製造技術を評価し、製品開発を行っていくというものだ。

 二酸化炭素(CO2)を原料として化成品に転換する技術開発は、カーボンニュートラルでのCO2利用技術CCU(Carbon Capture and Utilization)の一手法として注目を浴びている。本編では、触媒技術を用いてCO2を利用してプラスチックへ転換する技術の開発、商用化を行っている企業についてまとめる。

目次

プラスチックへのCO2利用方法
CO2原料プラスチック
 ポリカーボネート(PC)
 ポリウレタン(PUR) 
CO2原料プラスチック開発企業
 ポリカーボネート 旭化成
 ポリオール コベストロ
 ヒドロキシポリウレタン 大日精化
CCUとしてのCO2原料プラスチックの貢献度
成功例から学ぶ

プラスチックへのCO2利用方法

 CO2を高分子または高分子原材料に変換する方法は、水素細菌や微生物などバイオ技術を活用する方法と触媒による化学反応による方法がある。本編では触媒による化学反応を取り上げる。

CO2原料プラスチック

 O-C=O構造を持つプラスチックは、水素を用いることなくCO2を原料として製造することが可能だ。代表的なものにポリカーボネートやポリウレタンがある。

ポリカーボネート(PC)

 ポリカーボネートの製造方法は、ビスフェノールAとホスゲンによる界面重合法とポリカーボネートとフェノールによるエステル交換重合法がある。エステル交換で使用されるジフェニルカーボネート(DPC)はO-C=O構造を持つ。ポリカーボネートの原料としてDPCをどのように製造するかがカギとなる。

ポリウレタン(PUR)

 ポリウレタンは、ジオールやポリオール(PO)とイソシアネートの反応によってできるウレタン結合をもつポリマーの総称だ。様々なPOやイソシアネートの組み合わせによって特性の異なるウレタン製品を製造することができる。PO、イソシアネートともにCO2を原料として製造することができる。

 このようにCO2を原料としてプラスチックを作ると言っても、PC、PUR共にプラスチック製造原料となる化学物質の製造する触媒とプロセスを開発することが、最終的にプラスチックにCO2を取り込むことになる。

CO2原料プラスチック開発企業

 表1にCO2を原料としたPC及びPURを開発、商用化している企業の一覧を掲載する。

 PCでは、旭化成がEC法PC製造技術をライセンス供与していて、2020年時点で5か国・地域の6社がCO2原料PCを製造している。

 PURでは、コベストロが前身となるバイエル・マテリアルサイエンスが2013年に商用化したCO2を原料としたPO「Cardyon」を販売しているほか、米国のノボマーが開発したCO2原料PO「Converge」の知財をアラムコ・パフォーマンス・マテリアルズが取得している。

ポリカーボネート 旭化成

 旭化成は、1980年頃から非ホスゲン法PC製造プロセスの研究を開始した。エチレンオキサイド(EO)とCO2からエチレンオキサイド(EC)を製造し、最終的にPCを製造するEC法PC製造プロセスを開発し、台湾の旭美化成に製造技術のライセンスを提供し2002年から商用運転を開始した。

 有毒なホスゲンを使用する溶融重合法に比べ、EC法は設備の建設費も安く、廃液や廃棄物を抑制しているため操業費もメリットがあるという経済性に優れた製造プロセスだ。2020年時点で5か国・地域の6社に約90万トン相当のライセンス供与を実施している。

 EOとCO2を原料にECに転換すると、ECにはCO2由来の構造が50%含まれていることになる。このようにしてEC法PC製造プロセスではCO2構造が維持され、最終的にPCに含まれるCO2由来の構造は11%となる。原料のCO2がすべて製品に固定化されれば、PC1kgあたり173gのCO2がポリマー中に固定化されることになる。

ポリオール コベストロ

 コベストロの前身となるバイエルは、ポリカーボネートやポリウレタンを発明した会社だ。バイエルのマテリアルサイエンス部門は、何十年にもわたる研究の結果、CO2とプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキシドを非結晶性の二重金属シアン化物(DMC)触媒存在下で共重合させて製造するポリエーテルカーボネートポリオール「Cardyon」を開発した。

 2016年、バイエルはドイツのドルマーゲン工場に年間5,000トンのPO生産能力を持つ設備を設置した。生産に必要なCO2は近隣の化学工場の排ガスから回収している。コベストロによると、主にウレタンフォームの原料として使用されているCardyonはCO2を石油などの化石原料の代替とすると同時に、既存法と比較して経済性に優れるとしている。

 コベストロによるとCardyonには最大20%CO2が含まれていることになる。2018年に公表された欧州連合のCEMCAP報告書によると、従来のポリエーテルポリオールをCO2含有量20%のCO2ベースポリオールに置き換えることで、年間200万トンのCO2を原料として利用できるとしている。

ヒドロキシポリウレタン 大日精化

 大日精化は、2016年CO2を直接原料として側鎖に水酸基(-OH)を有するヒドロキシポリウレタン(HPU)を上市した。HPUの合成方法は、エポキシ化合物とCO2から環状カーボネート化合物をつくり、ジアミン化合物との重化合反応により合成する。

 大日精化のHPには開発秘話が載っている。それによるとCO2を原料とした「“エコマテリアル゛というアピールをしても、顧客の反応は冷たかった」。そのため、”機能性ポリウレタン“として再定義を行い、OH基を持つことでガスバリア性や接着性が優れるという特性を強調し、既存PURの機能を遥かに凌駕する製品として上市することができたとある。

CCUとしてのCO2原料プラスチックの貢献度

 これまで商業化されているCO2を直接原料としたポリカーボネート及びポリウレタン原材料について見てきた。表1に示したように、カーボンニュートラル社会を目指して化学、プラスチック会社はCO2を原料としたプラスチック及びプラスチック原材料の開発を行っている。

 経済産業省の資料によると、含酸素機能性プラスチックの世界需要は、ポリカーボネートが460万トン、ポリウレタン原料が2,160万トンとなっている。日本の需要はPCが30万トン弱、PUR原料が70万トン弱で、それぞれ世界需要の6%、3%程度でしかない。

 旭化成のEC法PC製造プロセスでは、PCにCO2由来構造が11%含まれ、PC1kgあたり173gのCO2がポリマー中に固定化される。従って、すべてのPCがCO2原料PCに置き換わったとすると、年間80万トンCO2がPCに固定化されることになる。

 コベストロのパートで言及したように、欧州連合のCEMCAP報告書は、従来のポリエーテルポリオールをCO2含有量20%のCO2ベースポリオールに置き換えることで、年間200万トンのCO2を原料として利用できるとしている。

 2020年の世界のCO2排出量は314億トンであるので、PCとPUR原料のすべてがCO2原料に代わったとして、CO2固定化貢献度は0.009%程度となる。日本の需要から見た場合はさらに貢献度が下がる。

成功例から学ぶ

 CO2を直接原料としたプラスチックの研究は1960年代からあった。1980年代には企業での開発に拍車がかかり、2000年代に入って商用生産が始まった。先鞭研究から40年、企業開発から20年の時間を必要とした。

 旭化成EC法PCやコベストロのPO Cardyonは、CO2を原料とした環境にやさしい材料と言うよりも、有毒なホスゲンを使用しない安全性や従来製造プロセスに対して経済性で優位があるという点が製造会社にとって支持される点のようだ。

 また、大日精化のHPUでは、“エコマテリアル”という面では市場から評価されず、ガスバリア性や接着性など機能面での優位性が必要であった。

 CO2削減のためのCCUの必要性は重要で、関係企業はいろいろな方法で既存材料のCCUの可能性を研究開発しているが、強制的な政策としての導入がなければ、CO2原料プラスチックが市場に受け入れられるためには、経済性や機能面での特徴が重要な要素になる。


 三洋化成の英国エコニック社のCO2原料PO製造技術の評価や他のCO2を原料としたプラスチックおよび原材料の開発及び上市の行方に注目していきたい。

参考

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