自動車部品メーカーのスタートアップへの出資、株式取得動向 2024年前半
自動車部品メーカーのスタートアップへの出資、株式取得動向 2024年前半

自動車部品メーカーのスタートアップへの出資、株式取得動向 2024年前半

2024年前半に自動車部品メーカーがスタートアップに出資した動向についてまとめる。
(2023年の出資動向については「自動車部品メーカーのスタートアップ出資動向 2023年」を参照。)

目次
エクセディ
豊田合成
武蔵精密
TPR
スタートアップへの出資

エクセディ

 2024年前半に自動車部品メーカーが発表したスタートアップへの出資情報で一番数が多かったのは、駆動系部品メーカーのエクセディであった。

 エクセディは、2023年12月末に、低い資本収益性、及び自動車産業の電動化により自社事業の先行きが不透明だとして、資本コストを意識し、既存事業の収益性確保及び新規事業開発推進を推し進めると発表した。

 2024年4月24日には中長期戦略を発表した。その中で、新事業・新製品としては、2輪/3輪BEV用駆動ユニットやドローン用推力システム、BEV用ワイドレンジドライブシステムなど、モータ・駆動システムを当面のターゲットとしている。

 中長期戦略発表の2日後、エクセディはイギリスの二輪、及び軽量商用車用、船舶用電動パワートレイン開発を行っていたSaitta Group(サイエッタ)社の資産・知財権等を取得したと発表した。サイエッタは2024年3月4日に破産手続きに入っていた。

 また、同日福島県相馬市に本拠を置くイームズロボテックス(EAMS)の株式の一部を、菊池製作所から取得した。2024年5月21日にはEAMSが発行する第三者割当増資を引受け、同社の株式を追加取得した。EAMSは産業用ドローンを活用した自律機器を開発している。

 5月15日には、インドの電動二輪・三輪モビリティ開発を行っているOMEGA SEIKI(オメガ)社に出資したと発表した。エクセディは、自社でも電動駆動ユニットを開発しているが、2023年6月23日はインドの電動二輪・三輪用モータ、コントローラーを開発しているSTARYA MOBILITY社に出資している。インドでの電動二輪・三輪駆動ユニット事業を加速させたいという意図が感じられる。

 8月7日、商用車向け電動駆動システム開発を行っていたPRE-EVモビリティの株式を取得し子会社化した。PRE-EVモビリティは、2022年5月に車両整備などを行う山形県山形市に本拠のあるサニックスと、大阪府八尾市で運送業を行うドーシンキャピタルによって設立された。環境省採択の実証事業「商用電動車向け高効率発電蓄電システムの開発」で、走行に必要なエネルギーを計算し計画的に発電・蓄電ができる「計画発電蓄電制御装置(SGCCS)」と、4トン車5Lエンジンを230kWモータに置き換え、2Lエンジンレンジエクステンダーに改造した商用トラックによる実証を行ってきた。

 このようにエクセディは、ドローン関係、及び二輪・三輪、商用車向け電動駆動システムのスタートアップへの出資、M&Aを積極的に進めている。

豊田合成

 2023年に発表されたスタートアップへの出資で一番数が多かったのは豊田合成である。2024年前半も4件のスタートアップへの出資があった。

 3月にはヘルスケア分野で2件の出資があった。名古屋大学発のスタートアップCraif(クライフ)社は、尿の中のマイクロRNAを捕捉・計測し、AIで分析する検査キッドを開発している。ユーリア社は、尿検査キットとスマホアプリを組み合わせ、栄養状態などを解析する技術開発を行っている。

 6月、7月には人工衛星関係のスタートアップ2社への出資があった。小型人工衛星の開発・運営及び衛星からのデータ解析ソリューションを提供するSynspective(シンスペクティブ)社と、人工衛星向けエンジンを開発するLetara(レタラ)社だ。レタラ社は、プラスチックと酸化剤による推進力エンジンを開発している。

 豊田合成は2018年にCVCを創設し、さまざまな分野のスタートアップに出資してきたが、2024年前半はヘルスケア分野と人工衛星関係の4社への出資となった。

武蔵精密

 新規事業を積極的に推進している武蔵精密は、アフリカでの電動二輪関係2社への出資、追加出資を行っている。

 2月14日には、2023年8月に追加出資を行ったケニアの電動二輪車開発・製造販売のARC Ride(アーク)社にさらに追加出資を行った。武蔵精密が開発したバッテリーマネジメントシステム(BMS)の採用に向けた試験を行い、ソフトウェア開発の協業を行っていくとしていて、電動二輪車向け電動駆動システムからさらなる展開を図る。3月13日には、エチオピアの電動二輪組立、販売を行うDodai(ドダイ)社に出資した。アフリカでの地域展開を図っている。

 4月26日に発表した新潟県三条市に本拠があるワイヤード社は、レーザーにより従来の光学システムによる穿孔より100倍の高速で連続加工ができる技術を保有している。武蔵精密は、2020年1月にJSRからハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)を開発・製造販売しているJMエナジー社の株式を譲受し、武蔵エナジーソリューションズと商号を変更した。武蔵精密は、ワイヤード社の技術をHSCへ適用を図るとしている。

 新規事業をいろいろと模索してきた武蔵精密であるが、電動二輪駆動システムのインドやアフリカでの展開、また武蔵エナジーソリューションズのHSCの事業展開については道筋が見えてきたようだ。

TPR

 自動車エンジン向けピストンリングなどを生産するTPRも5月26日に中期経営計画を発表している。その中でパワートレイン分野以外のフロンティア分野には、新事業として介護ロボット、アグリフードテック、インフォテイメントが挙げられていた。

 5月31日、TPRはスタートアップBashow(バショウ)社に出資すると発表した。バショウ社は、車載デジタルコンテンツの提供タイミングを適切に判断するシステムの開発を行っている。TPRは2023年3月に、車窓XR事業開発を進めるDUAL MOVE社に出資していて、2社のシナジーが見込めることや、車載インフォテイメント、非モビリティ分野での生成AI活用事業への展開可能性があるとみて、バショウ社への出資を行ったとしている。

 6月6日には、人工衛星の安全航行確保のための軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングス(ASHD)社の株式を取得している。ASHDは、スペースデブリ除去に関する技術開発を行うアストロスケール社(AS-J)を子会社としていて、TPRはAS-Jとスペースデブリ除去技術での協業の可能性を検討するとしている。TPRの中期経営計画では宇宙関連の新規事業については言及がなかったが、成長分野と見て展開を検討するようだ。

スタートアップへの出資

 スタートアップへの出資をどのような位置づけにするかは、各社の考え方や出資先の状況によって異なるだろう。成長するとみられる分野の情報収集としての位置づけならば、CVCを創設し、広く浅く出資することが有効だ。豊田合成は2018年からCVCを設立している。また、日本特殊陶業も2024年5月21日に水素・脱炭素分野のスタートアップへの出資を行うCVCファンド「水素の森」を設立した。

 自社の新規事業とのシナジーや事業展開を本格化するためには、追加出資や株式取得でのM&Aへの展開へ発展する。上記の例では、エクセディのドローン関連事業としてイームズロボテックス(EAMS)社への追加出資や、武蔵精密のアーク社への追加出資やワイヤード社への株式取得が挙げられる。今後もスタートアップへの出資や株式取得情報を更新していく。

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