2024年1月、2023年に発表された日本企業の自動車駆動モータ向けモータコア動向を「自動車用モータコア ~日本企業の生産能力増強と新規参入状況」としてまとめたが、2024年に入ってからも、モータコア事業への新規参入や生産設備導入の発表や報道が続いている。ここでは、2024年前半の自動車駆動モータ向けモータコア関連の動向についてまとめる。
目次
モータコア大手
三井ハイテック
黒田精工
EURO GROUP
進む自動車部品メーカーの生産準備
メタルアート
ユタカ技研
エフ・シー・シー
鉄鋼関連企業
吉川工業
JFE商事
モータコア材料、モータ積層技術
プロテリアル
田中精密工業
能力拡大、新規参入が続く積層モータコア事業
モータコア大手
三井ハイテック
自動車駆動用モータコア大手の三井ハイテックは、2023年11月にメキシコに新工場を建設すると発表した。2024年4月19日に開催された株主総会では、今期の設備投資額360億円のうち、モータコア製品が主力である電機部品事業に投資額の65%に当たる236億円を投資するとしている。電動車の駆動用・発電用モータコア生産のための能力増強が主目的だ。メキシコ新工場以外への展開も注目される。
黒田精工
黒田精工は、2023年12月長野工場敷地内の新工場棟第8工場及び倉庫棟が竣工したと発表した。電動車向け駆動用・発電用モータコアの量産及びモータコアに磁石を挿入し、樹脂で固着するMAGPREX工程を設置した。モータコアは大型化する方向があり、それに伴い金型、プレス、加工機の大型化も必要となっている。黒田精工の長野工場第8工場では300トンの大型高速プレスを導入し、大型化するモータコアに対応した。今後は、更なる大型高速プレスの増設も検討し、電動車向け駆動用モータコア金型の生産能力は2025年には2023年比2.5倍になるとしている。
EURO GROUP
黒田精工はイタリアに本拠を置くEURO GROUPとモータコア事業で提携をしていて、「ユーログループがプレスの台数を倍にすれば、黒田精工もそれに見合った投資を行う」と黒田精工の専務は新聞社の取材に答えている。2024年8月5日、ユーログループ・ラミネーションは中国のHIXIH GROUP(華勤ゴム)と戦略提携に関する予備合意を締結、その後インドのKumar Precision Stampings(クマール)の株式を40%取得すると発表した。中国とインドへの足掛かりをつくるものだ。黒田精工の関与を見守りたい。
進む自動車部品メーカーの生産準備
メタルアート
ダイハツ系鍛造プレス部品製造のメタルアート(滋賀県草津市)は、2022年5月13日にモータ事業に参入すると発表した。自動車のEV化によりメタルアートが生産するエンジン・トランスミッション部品が減少すること想定されることから、新事業としてモータ事業への参入を検討してきた。
2024年2月15日、メタルアートは滋賀県甲賀市にある水口工場に新設したモータ工場が竣工したと発表した。330トンの高速大型プレス機を導入し大径のモータコアの製造ができ、カシメと接着の両方の積層技術が可能としている。ステータ及びロータコアを月産20,000セット生産する能力がある。今後、2024年11月には磁石封止・溶接工程、12月には熱処理工程を導入する予定だ。メタルアートのモータ事業の目標は、モータコアだけでなくモータ設計・評価ができることで、2021年度から25年度までに160億円を開発や設備に投資するとしている。
ユタカ技研
駆動系・排気系部品を製造しているユタカ技研(静岡県浜松市)は、2015年に駆動系モータコア事業に参入の発表をしている。2024年3月期の決算説明会資料によると、モータ事業の拡大としてモータコアの積層サブアッシィだけでなく、最終的にはモータアッシィまで提供できるようになるのが目的だ。2023年度のモータ事業の売上は71億円だが、2030年には400億円の売上を目指す。
2024年2月には、中国に積層工程のパイロットラインを設置、日本での量産実績・ノウハウを基に、中国での廉価・短納期で競争力を高める計画だ。今後、日本に2024年11月にはステータCOMPパイロットライン、12月には積層工程のパイロットラインを設置、2025年1月にはモータアッシィの開発検証設備を導入する予定で、モータ事業の拡大への準備を着々と進めている。
エフ・シー・シー
クラッチ製造のエフ・シー・シー(静岡県浜松市)は、2024年5月パシフィコ横浜で開催された人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMAで、四輪車駆動用モータコア、及びモータコアSUBモジュールを展示した。エフ・シー・シーは二輪車駆動用モータも開発しているが、自動車用駆動モータ向けモータコアでは、中国佛山にモータコア用新工場を建設し、量産準備に入った。四輪車向けモータコアSUBモジュール事業には、開発費を含めて日本に35億円、中国に15億円を投資し、さらには北米へのリソースを投入していく予定だ。
鉄鋼関連企業
吉川工業
2024年3月、鉄鋼関連企業吉川工業のグループ会社吉川工業ファインテック(福岡県北九州市)が、北九州市小倉北区の本社隣接地にEVモータコア専用の新工場を立ち上げるという報道があった。モータコアの月産生産能力を現在の4倍となる約20万個に引き上げるというものだ。
福岡県の企業情報ページに公表された情報によると、吉川工業ファインテックは2021年8月よりEV向けモータコアの量産を開始し、ステータとロータコアの各3品種の生産実績がある。2024年7月には総床面積約7,000m2の新工場にアイダ製加圧能力3,000kNの高速プレス2台を含む200トンから300トンプレス4台を導入し、φ300mmまでの大型モータコアの生産が可能としている。
JFE商事
JFEホールディングスのグループ会社であるJFE商事は、2024年3月27日セルビアのインジャ市に電磁鋼板の加工・販売会社「JFE Shoji Serbia d.o.o. Beograd」を設置したと発表した。欧州での電動車増加による車載モータ需要増加により見込まれるモータコアの需要拡大に対応する。2025年1月の竣工、7月の本格稼働を目指すとしている。
モータコア材料、モータ積層技術
プロテリアル
2023年1月に日立金属から商号を変更したプロテリアルは、2024年2月13日モータコア用アモルファス合金積層リボンを開発したと発表した。アモルファス合金は低損失で高効率モータに適しているが、電磁鋼板に比べ硬度が5倍ほど硬く、素材厚みが1/10と薄いため、積層打ち抜きに関しては課題があり、これまで粉末を固体化したアキシャルギャップ型モータのみに使用されてきた。プロテリアルは、接着剤を薄く均一に形成することで複数枚のアモルファス合金リボンを積層接着する技術を開発した。これにより積層リボン素材は電磁鋼板の厚みになり、打ち抜きによるxEV用積層モータコアを生産できるようになったとしている。
田中精密工業
ホンダ系自動車部品メーカー田中精密工業の子会社であるタナカエンジニアリングは、2024年1月31日モータコアの接着による積層占積率が99%以上を実現する接着積層技術を開発したと発表した。自社開発した接着材と極限まで薄く塗布する技術を組合わせて実現していて、取り扱いが難しい厚さ0.05mmの超薄板磁性材によるモータコアの生産でも99%以上の占積率を確保したとしている。
また、2024年5月10日には、同じくタナカエンジニアリングが、モータの接着巻線で従来のローラータイプのワイヤーガイド向け塗布技術に加え、ノズルタイプに適した塗布技術を開発したと発表した。自社開発した接着剤を巻線しながら導線に塗布する。ワニスによる導線での自己融着からの置換が可能となり工数の削減、生産性の向上が期待できるとしている。
積層モータコア材料及びモータ製造に関する技術開発も行われている。
能力拡大、新規参入が続く積層モータコア事業
2024年前半に発表された積層モータコア関連の企業動向をまとめた。既存のモータコア製造大手だけではなく、事業縮小が見こまれる自動車部品メーカーの新規参入も本格化してきた。今後もモータコア関連動向について注視していきたい。