キノコのレザー
ヴィーガンレザーにはキノコの基となる菌糸体から作られた天然皮革代替材料がある。マッシュルームレザーとも呼ばれ、牛や豚の皮から作られた本革に対して、動物を犠牲にしないで皮革を作ることができるだけでなく、成長させる過程でのエネルギー量や二酸化炭素排出量などが少なくて済むことがメリットとして挙げられる。
関連資料:「ヴィーガンレザートレンド2023」
キノコと菌糸体
人間は古くからキノコを食べたり、薬として使用したりしてきた。食用キノコは良質のたんぱく源であるだけでなく、含まれる成分が抗酸化作用や抗ウイルス、抗コレステロール、さらには抗菌などの活性を示すことから、老化防止や美白用化粧品としても使用されている。
ここで、キノコについて整理しておきたい。私たちが一般的に「キノコ」と呼んでいるものは、真菌の中の担子菌や子嚢菌の子実体だ。子実体は菌類が成長し胞子をつくるために形成された構造物である。子実体を作るまで菌類は菌糸体という糸状の形態を成長させていく。従って、キノコとしての子実体の下には何倍もの菌糸体が存在することになる。
菌糸体の使用
菌糸体はこれまでも芸術や工業製品にも使われてきた。菌糸体を使用したアートは、デザインされた造形と自然物の外観が独特の味わいを醸し出す。工業製品としては製紙や接着剤、包装資材、建築材料として使用されてきた。
従って、菌糸体を使用した芸術や工業製品を扱っていたり、研究していたものにとっては菌糸体で動物性天然皮革の代替材料を作るという発想は当然だったのかもしれない。実際、菌糸体によるヴィーガンレザーを製造している米国MycoWorksの創業者のひとりPhilip Rossは1990年代に芸術作品の素材のために菌糸体を栽培していて、その後、MycoWorksのヴィーガンレザーブランドとなるReishi(霊芝)に出会っている。
マッシュルームレザーの作り方
マッシュルームレザーにはメシバコブ(Phellius ellipsoideus)などの菌糸体が使用される。菌糸体の胞子をおがくずと有機廃棄物などを混ぜたベッド(床)に振りかけ、適切な温度と湿度に調節して成長させる。
その後は、強度補強のため基材を入れたり、霊芝やヒラタケなど他の食用キノコの菌糸と複合化したりして成長させた後シート状物を切り出す。これだけでは菌糸が生きているため、化学的に処理を施して炭水化物やたんぱく質を抜き、皮革として使用できる組成に変えていく。最終的には強度や伸びを調整して、色付けなどを行い皮革製品となる。
菌糸体レザーの課題
菌糸体を使用した植物性皮革にはいくつかの課題がある。ひとつは天然素材であるため品質を一定に保つにはノウハウが必要だということ、菌糸体レザーを生産しているインドネシア企業MYCLの共同創業者Ronaldiaz Hartantyoは、「挑戦的なことは品質を標準化することだ」と指摘している。
また、生産性とコストについても課題がある。牛などの動物を育てるのに比べれば菌糸体の成長は数十日と短いが、工業製品として供給するためには培養のために広いスペースが必要となる。MycoWorksやBolt Threadsでは垂直農法を取り入れ生産性を挙げる努力をしている。
菌糸体レザー採用ブランド
現在、菌糸体レザーは主に進んでヴィーガンレザーを取り入れる努力をしている高級ブランドや専門ブランドから製品として発表されている。例えば、Tommy HilfigerやCalvin KleinはEcovativeのヴィーガンレザーブランドForagerを採用した製品を、エルメスがMycoWorsのReshiを採用したバックを発表している。
日本でも、土屋鞄がBolt TreadsのMyloを使ったカバンを、FumikodaがMYCL Japanのマッシュルームレザーを使用した製品を発表した。今後もキノコや菌糸体を使用したレザー製品が増えていきそうだ。
関連資料:「ヴィーガンレザートレンド2023」