自動車部品メーカーのスタートアップ出資動向
自動車部品メーカーのスタートアップ出資動向

自動車部品メーカーのスタートアップ出資動向

 2024年1月9日、日本特殊陶業は、CVCファンドを通じて米国ウィスコンシン州に本拠を置くヘルスケア・スタートアップ インベッドバイオサイエンス社に出資したと発表した。電動化など自動車産業の変化の中で、自動車部品サプライヤーは従来の業容から、電動化対応製品の開発や異分野・新分野への参入検討を行っている。いくつかの企業は、異分野・新分野への進出の足掛かりと考え、スタートアップへの出資を積極的に行っている。ここでは、2023年に発表されたスタートアップ出資の状況をまとめる。

目次

トヨタ系2社
 豊田合成
 デンソー
セラミック2社
 日本特殊陶業
 日本ガイシ
駆動系3社
 武蔵精密工業
 エフ・シー・シー
 エクセディ
スタートアップへの出資

トヨタ系2社

豊田合成

 2023年に発表されたスタートアップへの出資件数が一番多かったのは、豊田合成で6件であった。2ヶ月に1件の割合でスタートアップへの出資を行っている。豊田合成は2018年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を創設し、2019年1月からはスタートアップに投資する専門部署ベンチャー投資企画室を新設している。知見・経験が乏しい分野についてはスタートアップなど外部の力を活用し、加速的に対応しようという狙いだ。これまで、22社ほどに出資をしたことになる。

 エネコートテクノロジーズは、京都大学発のスタートアップで、注目を集めるペロブスカイト型太陽電池を開発している。豊田合成としては電子技術応用製品や自動車部品への適用を検討するとしている。エネコートテクノロジーズに出資する企業は多く、技術供与、製造などは適用分野によって調整される可能性がある。

 Neuetは、福岡県を本店とするシェアサイクルによるモビリティサービス企業。フレンドマイクローブは名古屋大学発の微生物による排水処理システム開発を行っている。Pyreneeは、AIによる歩行者や自動車の動きを予測する自動車安全支援装置を開発している。シンクサイトは、AIによる細胞の画像解析技術を応用した細胞分離・分析装置を開発している。KEYesは、スマホで解錠できる南京錠を製造している。

 豊田合成のスタートアップへの出資を見ていると、太陽光からAI、ヘルスケアまで幅広く、異分野・新分野への知見およびスタートアップの技術力・ビジネス力を図っている面がうかがえる。また、HPには「若手を対象に出資したスタートアップへ出向するというプロジェクトも実施」しているあり、若手の育成の側面もあるようだ。

デンソー

 デンソーは、2022年12月、2023年11月に企業価値向上戦略を公表している。それによると事業進化の方向性として、半導体・ソフトウェアの投入強化、新事業領域で第2の柱を確立が挙げられている。新事業領域には農業も入っている。

 デンソーは、2020年にオランダの施設園芸企業セルトンGrに出資し、協業を行ってきた2023年8月にはセルトンGrの全株式を取得し子会社化した。セルトンは1896年に設立され100年の歴史を持つ企業でスタートアップではないが、世界で20カ国以上に施設園芸のソリューションを展開していて、デンソーが戦略的に世界規模で農業分野での成長を考えている決断であったとみることができる。

 少額出資を行い、協業を通して事業の成長性可能性を検討し、見込みがあるとみれば子会社化して、自社の技術やビジネスモデルに取り込むというのは、スタートアップへの出資への典型的なパターンであり、戦略的な動きとみることができる。

 2023年10月には、米国コヒーレント社が設立したSiCウェハー製造会社シリコーン・カーバイト社に出資を行っている。これも、BEV用のSiCウェハーの安定調達を図るというデンソーの戦略、事業領域の強化に沿った動きとみることができる。

 デンソーの出資に対する方向性は定まっていて、豊田合成がCVCで種々の分野の可能性を図るのと対照的のようだ。

セラミック2社

 自動車エンジン用スパークプラグなどを手掛けるセラミックメーカー2社も、自動車産業に依存せずに事業を展開するため、新分野への展開を推進している。

日本特殊陶業

 日本特殊陶業は、1990年前後に医療分野に進出し、自社での医療関係製品の開発と共に、米国CAIRE社、英国Chart BioMedical社、米国MGC Diagnostics社などヘルスケア関係企業のM&Aを行ってきた。医療分野は日本特殊陶業が注力する分野のひとつだ。

 日本特殊陶業は2021年3月に米国のベンチャーキャピタル PEGASUS TECH VENTURESと共同でCVCファンドを設立している。CVCファンドを通じて、2023年11月にはデジタルヘルスケアプラットフォームを提供する米国のVivalink Medical社に出資したと発表。2024年1月9日には、米国で生体吸収性ポリマーを活用した抗菌性創傷治療シートを開発しているImbed Biosciences社に出資した。医療分野への注力という事業方向に沿った動きとなっている。

日本ガイシ

 日本ガイシも自動車用排ガス浄化装置やセンサーなどのエンバイロンメント事業が売上の約6割を占める中、内燃機関に頼らないビジネスモデルの構築を進めているが、NaS電池やDACの研究開発など事業のコアであるセラミック技術を応用した展開が目立つ。

 2023年9月、藻類をはじめとするバイオ事業の開発を進めるちとせグループのシンガポールにある統括企業CHITOSE BIO EVOLUTIONに10億円を出資したと発表し、バイオ事業への進出を強化している。

 日本ガイシは、ちとせグループが推進する「藻」のちからで社会を変えるMATSURIプロジェクトに参画をしている。2023年3月には、ちとせグループのちとせ研究所が提案した「光合成によるCO2直接利用を基盤としたグローバル産業構築」がNEDOのGI基金事業に採択されたことから、微細藻類の分離に関して自社のセラミック膜による技術で参画を表明している。9月のCHITOSE BIO EVOLUTIONへの出資は、ちとせグループとの関係強化という一連の流れとみることができる。

駆動系3社

 自動車の電動化で将来消滅が警告される部位はエンジン以外にも、トランスミッション関係の駆動系がある。駆動系関係の部品メーカーも新事業推進の動きを活発化させている。

武蔵精密工業

 鍛造ギアを主力業容とする武蔵精密工業は、社長のリーダーシップで、M&A、社内ベンチャー、スタートアップ・アクセラレーター事業、スタートアップへの出資など新事業開発に様々な手を打ってきた。2023年はこれまで協力関係を構築してきた海外スタートアップへの追加出資などで、協業関係の強化および現地事業促進を図っている。

 2023年1月には、AIによる自立稼働ロボットの共同研究開発をしているイスラエルのSIXAI社に出資。8月には、二輪・三輪用e-Axleを共同開発している、インドのBNC Motors社とケニアのARC Ride社に追加出資を行った。9月には、台湾のデルタ・エレクトロニクスおよび豊田合成と、インドでの2輪車用EV駆動ユニットの製造販売の合弁会社を設立すると発表した。

 イスラエルのSIXAIには、ケニアを中心とする西アフリカでのEモビリティ事業での協業も行うとしている。武蔵精密としては、二輪・三輪用e-Axleの開発を促進し、成長が著しいインドなどでの投入、販売拡大を急いでいるとみられる。

エフ・シー・シー

 クラッチ大手のエフ・シー・シーも新規事業開発に積極的に取り組んでいる。2023年に発表されたスタートアップへの出資数は4件(1件は2022年12月に出資した沖縄アップサイクル繊維開発Curelabo)と、豊田合成に次ぐ多さとなった。

 2023年2月には、ドローン用ハイブリッド発電機を開発しているエアロディベロップジャパンに出資、ドローンサービス事業開発での協業も進めるとしている。また、6月には、ドローンを使用したインフラ点検ソリューションを開発しているmmガード社に出資したと発表。11月にはmmガードと販売代理契約を結び関係強化を図っていて、ドローン関係事業への進出を模索している。

 12月には、インドで電動モビリティ向けPCU、VCUを開発するTAKUMI社に出資したと発表した。エフ・シー・シーも武蔵精密と同様、二輪・三輪用駆動用モータの開発を行っているが、機械部品を製造してきたメーターにとって、制御系の技術を手のうちにするのはハードルが高く、協業先を探す動きとみられる。

エクセディ

 トルコン大手のエクセディも電動化で事業縮小が予測され、新規事業開発を推進している。

 2023年6月にはインドの子会社がインドで電動2輪・3輪車用モータおよびコントローラーを開発しているスタートアップSTARYA MOBILITY社に出資を行ったと発表した。エフ・シー・シーと同じ動向とみられる。12月には農薬散布用ドローンなどを開発するトルコのスタートアップ・バイバース社に出資を行ったと発表した。これもエフ・シー・シーと同じ動向だ。

スタートアップへの出資

 新分野や異分野への進出を目指して情報収集するためには、その業界に挑戦しているスタートアップに出資することが、一つの手段として挙げられる。しかし、成長するとみられる分野やすべてのスタートアップが順調に成長するわけではないので、出資が成果に結びつかない可能性もある。最終的には、企業の成長をどう描くかがカギとなる。

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